このページでは、地主の承諾が得られない場合の手段として、借地非訟という売却方法や注意点などを紹介します。
借地人が借地権を売却するにあたっては、大前提として地主に承諾を得る必要があります。
地主から見た場合、借地権の売却は借地権を第三者に譲渡することにもなるので、簡単には承諾してくれないこともあるわけです。
交渉がうまくいかない場合、借地人としては専門業者などに交渉を依頼することになりますが、それでも承諾を得られない場合、借地人としては借地非訟という方法を選択することになります。
借地非訟とは借地人と地主との間に揉め事が生じた時、地主に代わって裁判所に許可を出してもらうための手続きで、借地権譲渡や建物の建替えなどのトラブルで地主の承諾を得られない場合に利用されるもの。
最終的に裁判所が許可を与えてくれるにしても、地主と係争している状況だと借地権の買い手を探すのが難しくなったり、価格が下がってしまうといった傾向があることは予め認識しておいてください。
借地権売却において、地主の許可を取らずに無断で売却してしまうとほぼ間違いなくトラブルになります。感情面の問題点をあげると、自分の持ち物を勝手に他人へ売却されてよろこぶ地主はまずいないからです。
法律面の問題点をあげれば、そもそも民法の第612条において、他人の所有物を無断で売ったり譲ったりすることが原則禁じられています。
ただ、そうはいってもついつい「許可はあとから取れば問題ないだろう」と面倒ごとを後回しにしてしまうことも少なくないのが人間です。
地主の許可を取らないと一体どれだけ面倒なトラブルになるのか、過去の裁判例を使って許可を取ることの大切さを解説します。
地主に黙って第三者に借地権を無断譲渡した場合、新しく借地権を買い取った第三者は建物の買取請求権を認められない、という判例(最裁昭39.6.26民集18巻5号910頁)[注1]です。これだけでは非常にわかりにくいため、もう少しわかりやすく説明しましょう。
借地に関するルールは、「借地借家法」という法律で定められています。その第13条に、「地主は借地権契約を更新してほしい、しかし借地人はもう借地権を解除して出ていきたいという状況だと、借地人は既存の建物を地主に時価で買い取ってもらうよう請求することができる」という条文があるのです。
通常、借地人側が借地契約を終わらせたい場合、地主から承諾を得て第三者に借地権を売却するか、地主に借地権を買い戻してもらって更地にして契約解除するか、底地を地主から買い取るか、契約更新のタイミングで更新をせず残っている家を地主に買い取ってもらうしかありません。
建物の買取請求権がないと、借地人側はその土地から出ていくのが難しくなるため、借地人を守るために建物買取請求権が設定されているのです。
この裁判では、借地権を買い取った側である第三者側が借地借家法の第10条を理由に「買取請求権があるはずだ」と主張しました。借地法の第10条とは、「地主の許可が得られなくても、借地の建物に対して所有権の登記を行えば借地人として認められる」というものです。
第三者が「この借地は自分が利用権を手に入れたから、出て行ってくれ」と言ってきたとき、借地人が相手の要求を断るためには借地権が必要になります。しかし、借地権登記をするためには地主の許可が不可欠。
もしも地主が借地権登記に前向きでなかった場合、借地権者を名乗る人が出てきたら、せっかく建てた家から追い出されてしまう可能性があるのです。
こうしたトラブルを避けるため、第10条では「借地の家の所有権登記をした人は借地人と認める(所有権登記は地主の許可なくできるため)」と規定しています。
ただ、このケースでは借地権の無断譲渡を知った地主が、ただちに借地権契約の解除を行いました。借地権を買った第三者が登記を行ったのが契約解除の後だったため、買取請求権が認められなかったのです。
買い主としては、地主との関係が最悪な状態からはじまり、借地権の更新期限がきても家を買い取ってもらうことができない、つまり「いつかは自分でお金を出して更地にしなければならない」という苦しい状況になってしまいました。
[注1]裁判所:建物収去土地明渡請求
地主から借地の譲渡承諾を断られた借地人が、借地権を無断譲渡。さらに、借地権を買い取った人がさらに別の人に建物を又貸ししていたことによって、地主から借地権契約の解除と建物の解体・退去を求められた判例(東京地裁平8.6.2判時1600号115頁)[注2]です。
この裁判では、地主の主張が全面的に認められました。
地主が借地権売却を拒否した理由が「借地が自宅と隣接している=どこの誰とも知らない人に土地を購入されると困る」という妥当なものだったこと、元の借地人が非借地訴訟を起こさず、無断で第三者に借地権を売却していることが要因となっています。
もしも譲渡承諾を断られた時点で非借地訴訟を起こしていれば、大きなトラブルになることは十分避けることができたでしょう。
そして、借地権を手に入れた第三者が、さらに別の人間がビジネスをするための店舗として建物を転貸し、勝手にリフォームまで行っていたことが決め手です。
元の借地人から借地権を買い取った相手は、裁判を起こされた際に所有権移転請求権仮登記(登記を変更するという予約のこと)をしただけで、登記の書き換えはあくまでも仮のもの。
「正式にはまだ登記上の建物の所有者は変わっていない=借地権とそこにある土地は売っていないのだから、無断譲渡にはならない」と主張しました。
ポイントは、元の借地人と建物を転貸している新しい借地人との間で交わされた契約が、借地権の売買なのかどうかです。
所有権移転請求仮登記には、「実際には所有権が移転しているが、まだ書類上の手続きが終わっていないもの」と「あくまでも予約で、まだ権利は移ってないもの」の2種類があります。
この場合、借地権を買い取った側がすでにかなり高額のお金を払っていること、手に入れた借地と建物を自分のものとして別の人に無断で貸し出していることから「書類上の手続きが終わっていないだけで、実際には売買が終わっていて権利は移っている」とみなされ、敗訴したのです。
[注2]全国借地借家人組合連合会: 借地権譲渡の許可を得ずに借地権の譲渡を強行し契約を解除された事例
借地非訟は何も地主と争う時に使う手段とは限りません。借地人の借地権を守る目的や、地主との調整を図る目的で利用することもできるのです。
例えば、地主側が共有名義となっている土地の場合、各人の意見がまとまらないと承諾を簡単に得られないところ、非訟裁判の審問期日に地主が集まるチャンスが生まれ、それが交渉をまとめる場にもなり得ます。
借地非訟では法的手続きや地主との交渉など専門知識と実績があるプロに頼むことで、大きなトラブルを未然に防ぐこともできるわけです。
借地人と地主との交渉では売却の承諾が得られない場合でも、その道のプロが間に入ることで交渉がまとまる可能性もありますし、最後の手段として借地非訟を利用するといった気構えを持つのがポイント。
当サイトではそうした不動産会社をピックアップしていますが、その中でもセンチュリー21マーキュリーは借地権に特化した専門会社で、借地非訟の豊富な実績も持っています。
地主との交渉を一切引き受けてくれるので、双方が納得いく結果を出してくれると思います。
「地主が借地権の売却に同意しない」とひとくちにいっても、売却を拒否する理由は人それぞれ。地主側の事情が違えば、売却に向けて取るべき行動も変わってきます。
より適切な対処ができるように、地主がどういった場合に借地権の売却に同意してくれないのか、いくつかのケースを見ていきましょう。
借地権を売却するためには、地主、つまり底地をもっている人の承諾が必要です。法的にも実務的にも、地主の承諾を得ずに借地権を売却することはできません。
だからこそ、借地権売却ではいかに地主を説得するかが重要になってきます。
ただ、土地が共有名義になっている場合、よほど地主全員と仲良くしていない限り簡単には承諾を取れないでしょう。
たとえば、親や親族からの相続財産としてきょうだいで底地を相続している場合。
もし、相続のさいにきょうだい間で争いがあり、以後きょうだい同士の仲がこじれていたとしたら、地主を全員集めて説得するのはかなり困難です。
ある地主が売却話に前向きでも、ほかのだれかが「不動産のことはよくわからないが、相手のいうことを聞くのは嫌だ」と感情的になっていたら、説得のしようがありません。
不動産会社を通じて各地主を個別で説得し、それでもダメなら借地非訟を利用することになるでしょう。
過去になにかしらの契約違反をしている場合、地主が売却に同意してくれない場合があります。
一番よくあるケースは、「親の名義で建てた借地上の自宅を、子ども名義で建て替えた」ことによる無断譲渡です。
借地権とは「借りた土地の上に建物を建ててもよい」という権利なので、建て替え後の物件が子ども名義なら、本来は建て替え工事のまえに子どもが借地権者になる手続きをしなければなりません。
こういったケースでは、プロの業者を通じて地主に「売却に同意したほうがお得」だと理解してもらうのが効果的です。
借地権売却にさほど詳しくない不動産会社を利用してしまった場合、不動産会社が通常の土地売却と同じような感覚で手続きを進めてしまい、「売却についてまったく地主と交渉していなかった」というトラブルを起こす場合があります。
借地権売却において、地主を通さずに話を進めることは一種のタブーです。売却に地主の承諾が必要な以上、地主をのけ者にすると感情的にこじれてしまいます。
地主が売却してくれるかどうかに関わらず、借地権売却に詳しい専門の不動産会社を利用し、それでもダメなら借地非訟を利用するようにしましょう。